日めくりインドア女子

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「正しさ」を超える「優しさ」。熟年離婚危機夫婦映画「恋妻家宮本」ネタバレ感想

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家政婦のミタ」「〇〇妻」「女王の教室」の脚本家として知られる遊川和彦初監督作品映画「恋妻家宮本(こいさいかみやもと)」を見てきました。

以下、ネタバレを含む感想です。映画の原作となっている重松清「ファミレス」については未読ですので、あくまで映画版のネタバレとなります。

▼映画公式サイト

▼登場人物(キャスト)相関図

映画「恋妻家宮本」公式サイト 登場人物

 

はじまりはファミレス、そして離婚届

ファミリーレストラン「Denny's」から物語は始まります。

50歳になる宮本陽平(阿部 寛)は子どもの頃から優柔不断。27年前、妻の美代子と結婚を決めたのもファミレスでした。陽平は美代子の夢の代わりに自分が中学教師になることを約束します。

陽平と美代子の息子・正(入江甚儀)はすくすくと成長し、大人になり結婚。被災地取材のために福島の新聞社へ就職し、引っ越してしまいます。

あっさりと一人息子が巣立っていき、実に久しぶり(というか授かり婚だから初めて?)二人で暮らすことになった陽平と美代子。

自宅で酔った美代子は陽平に「これからは下の名前で呼び合うこと」と約束を迫り、そのままソファで寝てしまいます。妻も久しぶりの二人きりの生活に不安があったのかもしれない、と二階へ毛布を取りに行く陽平。寝室にあった書棚でふと志賀直哉の「暗夜行路」を目にとめます。それは二人にとっても思い出の一冊。懐かしく手に取ってみると、一枚の紙がはさんでありました。

それは離婚届。しかも、美代子の欄がすでに埋まっています。

思いがけないモノを手にして、陽平は激しく動揺するのでした。

所感

冒頭のこの部分、陽平のモノローグが多めでした。「中学生日記」かと思うほどの怒涛のモノローグ。それは陽平がいつも決断をするときに悩み、決めたあとも本当にそれでよかったのかどうかと思い悩んでいることの現れかもしれません。若かりし美代子を演じるのが早見あかりさんなのですが、二人の顔を比べてみるとどことなく天海祐希さんと似ているんですよね。骨格が似ているのでしょうか。

▼離婚届が挟まれてあった「暗夜行路」

 

教師にむいてない陽平

離婚届を見つけてしまったことを美代子には切り出せないまま、勤務する中学校へむかう陽平。

陽平の担任するクラスでは"ドン"がいつものようにおどけて笑いを取っていました。そんな様子を、クラスメイトの"メイミー"が気にしています。異変には全く気が付かない様子の陽平に「ドンはクラスメイトにいじめられないように、ああやって笑いに変えている。もっとちゃんと見てあげて」と忠告するメイミー。

その言葉を気にかけながらドンの家庭訪問に赴く陽平でしたが、陽平の祖母・礼子(富司純子)の厳しい言葉に何も言い返すことができません。

家庭でも職場でもうまくいかず、陽平は27年前にした自分の選択を回想しはじめます。自分は中学校教師になんてなりたくなかった。大学院を出たら小説を書いて、売れっ子作家になって、自由気ままに暮らす男になっていたはず……と妄想を膨らませます。

所感

「あのときああしていたら……」という妄想は、誰しも心あたりがあるのではないでしょうか。たいていは現状がうまくいっていないときに、過去の選択を悔やむんですよね。でもだいたいどれかひとつだけの選択が影響を及ぼしているわけではなくて、細かい小さな決断が積み重なって今に至るのだと思います。アニメや映画などでタイムリーぷを繰り返しても「あっちを立てればこっちが立たない」といったように、どれかひとつを変えても結局は今の自分になるのかな……とも考えてしまいます。ちなみにそう思わされた映画ナンバーワンはバタフライ・エフェクト。あのラストには唸ってしまいました。

そしてドン! ドンかわいいよドン! ドンを演じる浦上晟周君の演技が絶妙です。最初のクラスメイトの前でわざと明るくおどけてみせるシーン、「すごい緊張でもしてるのかな?」と思うほどに目が笑っていないんです。あとからメイミーが陽平に指摘して、あぁなるほど目が笑っていないわけだ、ドンの本心じゃないもの、と納得。「〇〇妻」に出演している俳優なんですね。「〇〇妻」見ていなかったからチェックしてみようと思います。

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陽平の唯一の趣味は料理 

陽平は数年前から料理教室に通っています。普段の優柔不断な様子はまったくなく、料理をしているときの陽平はテキパキと動き、生き生きとした表情。

料理教室では少人数のグループにわかれてメニューをつくる方式で、陽平のグループ仲間は美人で毒舌の主婦・五十嵐菅野美穂)と結婚間近ですぐノロケ話に持っていく独身OLの門倉相武紗季)です。

五十嵐の毒舌の勢いにのって、離婚届を見つけてしまったことを二人に相談する陽平。それを聞いた五十嵐は「不倫してるとか……奥さんが」と指摘。それに動揺した陽平は、帰宅後に美代子の携帯電話を盗み見しますが、やりとりしている相手は自分か息子の正のみ。ほっとする陽平に「明日から正のところに行ってくるから。お嫁さんが熱出して食事とか不便してるみたいで」と言って美代子は荷造りをはじめます。

所感

五十嵐役の菅野美穂さんめっちゃ綺麗。簡潔な言葉で無表情に話す冷たい感じの女性を演じていますが、肌白いなーめっちゃ綺麗だなーと見惚れてしまいました。あとすごく不思議だったのが、「料理教室」といいながら「料理の先生」が見当たらなかったことです。それこそ陽平が中学校でやろうとしている料理サークルのようなゆるい雰囲気で、料理好きの人が集っておいしい料理をつくっているようにしか見えませんでした。調べてみたら、原作には料理教室の先生はいるみたいですけど、映画では脚色されているんですね。

陽平が料理を好きなのは「決まった手順を決まった通りに行えばいい」からかな? と思いましたが、味付けのバリエーションを楽しむ場面(卵かけごはん)もあるので、必ずしもそうではないのかな。単に「向き不向き」というのが人間にはある、ということかもしれないですね。

 

美代子の異変に気づいた息子

陽平のもとに、息子の正から「お母さんとなにかあった?」と連絡が入ります。正によると美代子が陽平に言っていた「お嫁さんが発熱」というのはすぐに治っていて(それをメールもしていて)、「しばらく福島にいる」とこぼしてソファーで寝てしまった様子。心配する陽平でしたが、数日後に美代子は福島から戻ってきていました。「久しぶりにCD聴こうと思ったら、正が持っていっちゃったのよね」と吉田拓郎の『今日までそして明日から』を流し始める美代子。しかし陽平はその曲をすぐに止めて、離婚届を見つけてしまったことをついに切り出します。

「俺の何が不満なんだ?」と詰め寄る陽平。「不満はないけど、不安がある」と答える美代子。離婚届を書いた理由をはっきりとは言わないものの、「あなたって結婚に向いてないよね」と言われ感情的になった陽平は、その場で離婚届を書き上げて判を押してしまいます。陽平が突き付けた離婚届を受け取って、美代子は再び家を出てしまいました。

所感

すれ違う二人って感じですね。長年一緒にいると、不満や不安が積もり積もって気づいたときには簡単には修復不能なところまできている、なんてことも珍しくないのかも。

そして美代子さん、すぐに福島の息子夫婦のところに行きすぎ。夫婦のピンチなのは気の毒ですが、新婚の息子夫婦(遠方)のところに入り浸るお嫁さんからしたらちょっとビビりますよね。幸いにも、そういう素振りはまったく見せない天真爛漫なお嫁さんでよかったです。

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五十嵐さんと旦那さん

 離婚寸前でどんどん見た目もボロボロになっていく陽平でしたが、授業で高村光太郎の『道程』や、夏目漱石の格言『考えよ。語れ。行え。』を用いて熱弁を振るいます。しかし、祖母への反発で食事を取らないドンが授業中に空腹で倒れても、卵かけご飯のレシピを渡すのみ。そんな陽平に、メイミーは「先生、教師に向いてないよね」と言い放ちます。

陽平の唯一の趣味である料理教室では、遅れてきたOL門倉さんが「婚約解消になった。既婚者のあなたたちを見ていても結婚が幸せとは思えない。料理教室もやめます」と発言。若干落ち込む五十嵐と陽平は初めて一緒に居酒屋に行きます。いつもの様子とちがって色っぽい五十嵐に押しきられ、あわやというところで病院から連絡。五十嵐の夫が緊急で運ばれたとのこと。急いで駆けつける五十嵐、と陽平。旦那さんはただお風呂で眠ってしまって健康に異常はなかったそうで、大声で激しく言い合いをはじめる二人に陽平はすこし羨ましさを感じるのでした。

所感

菅野美穂さんめっちゃ綺麗(再)!  胸元ざっくりでかなりセクシーなパートでした。旦那さんとポンポン言い合うところからそれまでの「五十嵐さん」のキャラクターがガラリと変わって、なんだかあの冷徹な五十嵐さんが懐かしくなってしまいました。

五十嵐さんの旦那を演じているのは佐藤二朗さん。キャラ立ちすぎ。出てきたときに館内に「フフッ」という生暖かい笑いが起きるほど。

五十嵐さんとなんやかやあるシーンでは「宮本さん、意外と優柔不断なんですね」と言われます。逆に、料理をしている陽平は全く優柔不断には見えないことがこのセリフからも伝わってきます。

▼授業で使う「道程」

 

ドンの祖母と対決

 五十嵐夫妻と陽平がいた同じ病院に、ドンの母親・尚美も入院していました。罪悪感から食事もとらずに点滴だけを打つ尚美を見た陽平は「お母さんにお弁当をつくってあげよう」とドンに提案します。

ドンの祖母・礼子が出掛けている隙に台所を借りて陽平は料理を教えますが、そこへ予定より早く礼子が帰ってきてしまいます。目の敵にしている嫁に弁当を作っていたことを知り、烈火のごとく怒りだす礼子。

「自分は全てを家族のために捧げてきた。決して不平を漏らすこともなかった。それなのに嫁は子供を放置して不倫までして許せない。わたしが言っていることが正しくないとでも?」と叫ぶ礼子に気圧されて一旦は引き下がりかける陽平。ドンとメイミーの視線も冷ややかです。

「でも……」

と陽平は語りだします。

「お母さんはひどいことをしたかもしれない。そのお母さんにお弁当をつくってあげるのは『正しくない』ことなのかもしれない。でも、それは『優しいこと』なんです。あなたの言っていることはあなたにとっては正しい。だけど、それは優しくない

目をみはる一同の前で陽平は続けます。

『正しい』と『正しい』はぶつかって争いになるけれど、『優しい』と『優しい』が出会ったら、それは『もっと優しく』なる。そう思いませんか」

はっとする礼子の手をドンとエミ(妹)がそっと握り、台所は夕焼けのあたたかい光に包まれます。

所感

陽平の言ったことにとても考えさせられました。物事を判断するときに「正しい」かどうかだけに重点をおくことがあります。それで「正しくない」と責めてしまうこともあるかもしれない。だけど、正しくないからといって切り捨てるのではなく、そこへ「優しさ」を持ち寄る。尾崎豊っぽくなってしまったけど、それが「愛」なのかもしれない、と思いました。

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いざ福島へ

ドンが作ったお弁当を尚美に渡す陽平。その中身が、どれも「むかしお母さんが作ってくれた大好きな料理」であることを知った尚美は「子どもたちにちゃんと謝りたい」と涙します。病室に入るのをためらうドンに「なんて言っていいか分からなかったら、ただそばにいればいい。そして帰るときにこう言うんだ。また明日来るね、って」と送り出す陽平。一部始終をそばで見守っていたメイミーにも「ドンのことを思いやれる素晴らしい人間だ。尊敬する」と感謝すると、逆に「前言撤回、先生はやっぱり教師に向いてるよ」と言われます。

教師としての自信も取り戻し、少しずつ自分のことが好きになりはじめた陽平は、美代子のためにお弁当を作ります。それを持って福島へ行くと、美代子とはすれちがい。またとんぼ返りして美代子を追う陽平でしたが、最終電車に間に合わずに肩を落とします。しかし、顔を上げると線路をはさんだ向かいのホームに美代子の姿がありました。

所感

礼子と対峙したあたりから、ぐんぐんレベルが上がっていくかのような陽平がまぶしかったです。病室に入るのをためらうドンは二回目だったのですが「やっ、やっぱ無理~!!」と顔を赤らめて去っていくのが可愛すぎました。女子か。妹のことを気にしたり世話したりするドンがめっちゃいいお兄ちゃんで癒されます。

メイミーは根本的には優しいんですけど、あまり態度には表れないタイプですね。病室に向かうドンと手をつないだエミがこけてしまうんですけど、そのときに後ろから「ホラッ! なにやってんの!」ときつい調子で注意するのがちょっとヒエッ…と思ってしまいました。いや、優しい子なんだろうけどね、ちょっと言い方がきついだけで…。とても長くなりましたが次で最後です。

 

夫婦それぞれの思い

ホームで向かい合う二人。離婚届をまだ美代子は持っていました。そして離婚届を書いた気持ちを話しはじめます。

「正があっさりと巣立ってしまって、すごく不安になった。ちょうどそんなときにあなたは料理教室に通い始めて、とっても楽しそうだった。それで余計に不安が加速した。わたしはもう、だれからも求められていないんじゃないか、って。福島に来て、ボランティアをして『求められる、必要とされる』ってこんなにうれしいことなんだってわかった。だから、離婚届はわたしのジョーカーなの」と言い始める美代子。

思いがけない理由を聞かされた陽平は絶句。そうこうしているうちにホームが停電。たまたま美代子がボランティアのために持っていたロウソクを灯して、小さな光のなかで二人は落ち着いて話し合います。

正が美代子に言ったのは「美代子の作った味噌汁が飲みたい」。27年前のプロポーズの言葉と同じでした。そして「あのとき、ファミレスでプロポーズをしようとしている自分に言いたい。いま目の前にいる人を絶対に離してはいけない」と付け加え、美代子も自分も同じ気持ちだと答えて離婚の危機は完全になくなりました。

後日、ファミレスで食事をする二人。そこへ偶然に料理教室で一緒だった門倉さんが現れます。以前のキラキラ女子からは打って変わって硬派なスーツに身を包み「奥様と仲直りされたのですか。よかったですね。わたしは一生結婚しないと思います」と硬い表情で言う門倉さん。

そんな彼女を呼び止めて「僕は結婚して本当に良かったです。そりゃ大変なこともつらいこともあるけれど、すばらしい妻と結婚できて、本当に幸せです」とファミレス中に声を響き渡らせる陽平。メニューはいつものように優柔不断で決めかねていますが、悩んでいるメニューを聞いた美代子は二つとも注文して「分け合えばいいじゃない?」と笑い合ってエンドロールに突入します。

所感

すばらしい夫婦愛……なんだかもうすばらしすぎて、こりゃーファンタジーだな! とわたしのなかのやさぐれ小人が目を覚ましかけました。一体世の中の何パーセントの人が、素晴らしい伴侶と巡り合えるのだろう。そしてそのうちの何パーセントが宮本夫妻のように添い遂げられるだろう…宇宙とは……と意識が完全に剥離するかのようにかなり遠い目で見守っていたと思います。しかしめったにない奇跡のようなことでありながらも、普通の人が手にし得るなかでとても大きい幸せなのかもしれません。幸せな結婚というものは。

しかし宮本! 宮本さん! 奥さんに「この人おせっかいで。すみませんね」と言わせたとしても、婚約破棄で失恋したての女性にそんなこと言っちゃー駄目よダメダメ! とわたしのなかのエレキテル連合小人が目を覚ましかけるほどの勢いでツッコミたくなりました。

エンドロールは吉田拓郎さんの「今日までそして明日から」をファミレスにいる登場人物みんなでリレーして歌いだす、という超楽しい仕様なのが良かったです。天海祐希さん、さすがにやっぱりお歌がめっちゃ上手でした。

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おわりに

「恋妻家宮本」かなり盛りたくさんな内容ですが、サラッと見れるほっこりヒューマンドラマといった感じでした。

ちなみにクライマックスで出てきた福島の「こいづま」という駅は、調べてみましたが実在はしないようです。

原作となった「ファミレス」や、映画の中に出てきた名作が気になるので読んでみたいと思います。

▼原作となった小説「ファミレス」

お読みいただきありがとうございました。