2月24日に新作小説「騎士団長殺し」が発売される村上春樹さん。
長編としては実に7年ぶりの作品になるそうで、非常に待ち遠しいです。
今日は村上さんの自伝的エッセイ「職業としての小説家」について紹介したいと思います。
本の概要
「職業としての小説家」は、「MONKEY」や「考える人」に掲載されたものに大幅な書き下ろしを加えて、2015年9月に出版されました。
これまでの村上春樹さんのエッセイとしては珍しく、本編は「ですます調」で書かれています。そのため村上さんが語りかけてくるような感じを受けます。
内容は、村上さんがこれまでの体験から得た、小説家という職業についての意見が惜しみなく語られています。
村上さんの小説に興味がある人はもちろん、これから小説を書いてみたいと思っている人や、実際に小説を書いている人などにおすすめの本です。
デビュー作「風の歌を聴け」について
村上さんは最初の作品「風の歌を聴け」を書くにあたって、「何も書くことがない」という壁にぶち当たったそうです。
それで出した答えが、「何も書くことがない、ということをテーマに書く」でした。
小説家に大事な資質のひとつとして、材料となる物事や思い出をどんどんため込んでおいて、必要なときにそれを取り出す才能というものがあるそうです。早急に結論を出すような人は小説家には向いていない、とも村上さんは書いています。
小説を書くための体力づくり
小説を書くにあたって、大事なのは体力づくりだそうです。
それも精神面だけではなく、身体的にも村上さんは努力を続けているとのこと。
まず精神面では、たくさんの本を読むことが大事。
それから身体面で村上さんが続けていることは、走ること。
村上春樹さんは専業作家になってから三十年以上にわたって、ほぼ毎日1時間程度のランニングを行っているそうです。
インドアなわたしは毎日1時間以上走る、と考えただけでも「大変そう…」と思ってしまうのですが、村上さんからしたら例えばほぼ毎日1時間以上電車に乗り続けることのほうがずっと大変に感じるし、尊敬に値するのだとか。
自らの深層心理に潜っていくことの大変さを乗り越えるために、健康維持を意識しているそうです。
フィジカルとスピリチュアルのバランスを良くして、力の両立を図ること。これを読んでわたしももっと健康面・肉体の鍛錬に目を向けなければと思わされました。
誰のために書くのか
小説を書くにあたって、村上さんは明確な読者層というのは想定していない、想定できないとしています。
僕が頭の中に思い浮かべるのは、あくまで「架空の読者」です。その人は年齢も職業も性別も持っていません。もちろん実際には持っているのでしょうが、それらは交換可能なものです。要するにそういうのはとくに重要な要素ではないということです。重要なのは、交換不可能であるべきは、僕とその人が繋がっているという事実です。どこでどんな具合に繋がっているのか、細かいことまではわかりません。でもずっと下の方の、暗いところで僕の根っことその人の根っこが繋がっているという感触があります。それはあまりに暗くて深いところなので、ちょっとそこまで様子を見に行くということもできません。でも物語というシステムを通して、僕らはそれが繋がっていると感じ取ることができます。養分が行き来している実感があります。
(引用元 村上春樹「職業としての小説家」第十回 誰のためにかくのか?)
ここ、読んでいてとても感動してしまったのですけど、小説を読んだときに得る「共感」を通してほかの読者や物語の作者と繋がることができる、ということですよね。
それを感じるのは読者だけだと思っていたので、作者も同感だということにとても驚きました。読者と作者のあいだには「物語という壁」があって両者が隔てられているわけではないのですね。むしろ物語はそれを読んでいる人同士や、読者と作者をつなぐシステムである、ということに目から鱗が落ちるような思いがしました。
おわりに
紹介した部分以外にも、「職業としての小説家」には『文学賞に対する思い』や、『学校について』『海外で出版すること』などについても深く語られていて、興味深いところがたくさんありました。
▼2016年9月には文庫版も発売されています。
▼新作の「騎士団長殺し」も実に楽しみです!
お読みいただきありがとうございました。